[本] 『ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店』
「伝説の百貨店」ことノードストローム。小売業における顧客サービスのお手本と言えば、真っ先にこのノードストローム百貨店の名前が挙がるだろう。その「伝説的な」エピソードは数多く、曰く「客がセール商品を気に入ったが、合うサイズが在庫になかったため、従業員がライバル店で買ってきてその客にセール価格で販売した」、「航空券を店に忘れた客がいたので、従業員がタクシーで空港まで行ってその顧客を見つけて券を渡した」、「ノードストロームでは扱ってない商品=タイヤを返品しに来た客(当然レシートも無し)に、その場で返金に応じた」等々。
昨今の産業界では、顧客中心主義とか顧客第一主義とかいったお題目がスペイン風邪のように蔓延している。しかし、こうした伝説を生むような顧客サービスを実践している大企業が、他にどれだけあるだろうか(例えば伝説的な「物売るってレベルじゃねぇぞ!」というセリフを引き出したビックカメラも、お客様第一主義を一番に掲げている。)。地域密着型の個人商店や超高級ホテルならいざ知らず、全米展開している中~やや上流向けの小売業でこれだけのサービス面での評判を維持できるというのは、希有な存在だろう。
ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店
ロバート スペクター P.D. マッカーシー Robert Spector
日本経済新聞社 2001-02
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おすすめ平均
現実性は?
各エピソードは魅力的だが
家族経営、同族企業の方へ
そんなノードストロームを礼賛する本。120%ノードストローム寄りのスタンスなので鵜呑みにはできないけど、事業の核となる販売員周りの仕組みが書かれている。例えば販売員にかなり大きな裁量を与えて、顧客へのサービスや対応をその場で決定させていたり、コミッションによるペイが大きかったり、販売員間での競争が激しかったりするようだ。しかし、そのある種の宗教にも近い企業文化とブランド力をいかにして築き、どのように維持しているかという、一番難しい部分については語られていない。中上流向けのアパレル系だからこそ成り立っている部分も少なくないので、この本を読んで「さあ、明日からうちもノードストローム流で行くぞ!」と上層部が言い出すような会社は、ちょっと将来を心配した方がいいだろう。(★★★)
Wikipediaにも載っているノードストローム従業員則は、なかなかスマートだ。
Nordstrom Rules: Rule #1: Use your good judgment in all situations. There will be no additional rules.
また、百貨店業界と言うといかにもローテクっぽいが、ノードストロームはIT投資にも成功し、最近の業績も上々のようだ。日本に進出して閉塞感の漂う百貨店業界を何とかして欲しいものだけど、まあそれは無いだろうなあ。