辺見庸『もの食う人びと』
飽食な日本にはもううんざり。世界には食えない国だって多いはず。そんな本当の食を求めて旅に出た。という感じの、ノンフィクション作家・辺見庸のルポ本。バングラデシュで残飯を食うところから始まり、ドイツの刑務所で囚人とランチし、エチオピアで衰弱死寸前の子どもを眺め、果てはチェルノブイリでスープをご馳走になったりする、世界貧困食紀行みたいなもの。どこをどう読んでも普通の旅行の参考にはならないが、逆にこういうグルメでも名物でもゲテモノでもない食の話は他に見たことがないので、ちょっと読んでみる。
まずタイトルにある通り、主題は「人びと」であって、「食」は企画上絡めているけれどもあんまり「味」については語られていない。また、「人びと」の部分も相当に感傷的で、ちょっと鼻につくところも少なくない。だが、少なくとも「多少の放射能汚染なら味は変わらない」と言った知識を仕入れることはできる。特に戦後の日本軍残留兵がミンダナオ島で食人行為をしていた、というのはちょっと知らなかった。知っていたからといって何かの役に立つわけではないけれど。
ある意味ピーター・メイルと対極に位置する本だが、よくよく考えると、高い旅費とガイト・通訳と(多分)カメラマンを使ってバングラデシュに残飯を食べに行ってるわけで、究極の贅沢、と言えなくもない気がする。(★★★)