US出張を終えて。
October 3rd, 2006ゆりしーライブを断念しつつやって来た、一週間のカリフォルニア出張。色々あったようで実はそうでもないのだけれど、とりあえず覚えていることを。
アメリカ行きのセキュリティ・チェック
少し前の英国テロ未遂の影響だそうで、液体およびジェル状のものはすべからく機内持ち込み不可。これには目薬などの日用品も含み、チェック自体も通常のX線の後、搭乗直前にバッグを開けて直接調べるという念の入れよう。「液体やジェルは入ってないか?」と都合五回くらい聞かれた気がする。
ただ、このやり過ぎ気味なチェックは相当に不評だったらしく、9月25日から検査基準が改正されたとか。つまり9月24日に搭乗した僕は、よりによって最後の日に当たってしまったようだ。不評を受けて改正した新基準では、液体/ジェルはあるサイズ以下の透明なプラスチック袋に入れて別途検査に通すだけでよいとのことで、順調に不評を買っているとのこと。
カリフォルニア州ソノマ郡
カリフォルニア州はロサンゼルスやサンフランシスコ、サンディエゴなど、数々のアメリカ屈指の大都市を有するが、僕の最終目的地はソノマ郡。ソノマ郡とは、例えばこういうところだ。
「え? これ本当に空港?」ってくらいの小さな建物。以前、アメリカの地方空港を舞台にしたチープなエイリアンものテレビ映画があって、「空港なのにこんなに人いないの?」と思ったものだが、まさにそんな感じ。レンタカー屋と荷物のコンベア、あとトイレぐらいしかない。隅に一応端末が置いてあったが、一日何便あるかは怖くて調べられなかった。
ガジェットの値段
店先でアップルのiPodやソニーのiPodあたりを見てきたけど、ほぼ日本と変わらないくらいの価格帯だった。Xbox360のように日本の方が一、二割安かったりするものもあるが、差はせいぜいその程度。ユーロ圏のように日本円換算するととんでもなく高い、ということは全然なかった。ことデジタルガジェットや家電に関する限り、日本の物価はかなり安い方だと思う。
あと、サンフランシスコ国際空港では、缶ジュースとiPod本体が並んで自販機で売ってました。
Barnes & Noble
本屋の超有名ブランド、バーンス&ノーブルへ。近年なぜか急速に勢力を延ばしつつある”Sudoku”だが、ここでも棚一つ+ワゴン一つを占めるほどの汚染状態だった。「ナンバープレイス」みたいな英語っぽい別名があるにも関わらず、「数独」というもはや日本でも何の省略か知ってる人の方が少ない略称が世界中で流行っているのは、ちょっと不思議だ。新聞には当然のように載ってるし、MENSAの”Sudoku”本なんてものも。
”Do you sudoku?”て、既に動詞扱いに。
そんな感じで、特に仕事以外何もせずに帰ってきました。いやあ、本当にアメリカの地方って車が無いと何もできないものだね。
P・ヴェプファ他『機長の決断』
September 24th, 2006今は亡きスイス航空(ルフトハンザに吸収された)のパイロット、ヴェプファ氏が綴る「パイロットのお仕事とは?」という内容の本、『機長の決断』を。
いまどきの飛行機ってオートパイロットだけで離発着まで出来るんじゃないの? と素人的には思いがちだが、この本ではいかにそんな考えが甘いか、どれだけの作業が離着陸の裏で行われているか、あるいはなぜ搭乗から離陸まであんな絶望的に待たされるのか、といったことが事細かに描かれている。まあ、15年以上古い本なので今はどうだか分からないけど、少なくとも搭乗から離陸まで死ぬほど待たされる点は今も変わらないようだ。
この本の著者は相当に几帳面らしく、パイロットやその周辺の職務内容をかなり細かいところまで描いていると思う。その几帳面さが高じて、ことあるごとに事故事例を引っ張り出して「何年何日にボーイング707が高度設定の間違いで山に激突した」とか「インドで着陸空港を間違えて大破した事故があった」とか紹介していたりする。パイロット志望者ならともかく、一利用者という立場で読んでいると、飛行機というものにささやかな不安を感じなくもない。(★★★)
これとは全く関係ないけど、今からちょっと成田-サンフランシスコ便に乗ってきます。
岩脇一喜『SEは今夜も眠れない』
September 21st, 2006元銀行のシステム部門の人が15年に及ぶSE生活での体験(主にトラブル)を綴った、『SEは今夜も眠れない』を。
多分アニメーターとゲーム開発者の次くらいに「眠れない」職業であろう、SEにスポットを当てた本。ではあるが、この著者は、銀行の、しかも国際業務班という海外を飛び回るポジションで、日本の一般的なSEとは一寸異なる代物だ。ブリュッセルやパリに赴き、一秒を争う状況でトラブルに立ち向かう(銀行業務なので間違ったり遅れたりすると億単位の損失が出るとか)のが普通のSEだと思われると、ちょっと困る(それに、日本のSEの多くは金融系みたいに良い待遇を受けていない)。
まあ、読み物としてはロスの大地震やニューヨークのテロ事件に関わるエピソードがあったりして、それなりに興味深いけれど。読後感がいまいち物足りないのは、せっかく金融系の話なのに結局たいした失敗談もなく、どのエピソードも無難な結末で終わっているからだろう。ベアリングス銀行やエンロン事件と比べるのは酷だが、一億や二億ぐらいの損失を出してさあどうしよう、ぐらいの話は欲しかった。大抵の場合、成功談より失敗談の方が面白いのだから。(★★)
ディーン・クーンツ『ストレンジ・ハイウェイズ1 奇妙な道』
September 14th, 2006超ベストセラー作家の一人でありながら、同じジャンルにスティーブン・キングという王様が居座り続けているおかげで、三十年来トップに立ちきれないというポジショニングの(主に)ホラー作家、ディーン・クーンツ。その95年頃の中短編集『ストレンジ・ハイウェイズ』三分冊の一つを。
まずは中編の『奇妙な道』。父の訃報を受けて故郷に戻った、落ちこぼれ四十路のジョーイ。そこで昔に封鎖されたはずの道を進むと、なぜか若かりし頃の自分に戻り、少女セレステと出会う。そこでジョーイは過去に防げなかった殺人事件のことを思い出し、やり直すチャンスだと信じて殺人鬼と相対する。という、割と普通にありそうなセカンドチャンスもの。
ただこの話がちょっとユニークなのは、殺人鬼が悪魔に魂を売り渡した不死身の超人だったり、主人公が死にそうになったら臆面も無く時間が巻き戻ってみたりするあたり。スティーブン・キングもそうだけど、シンプルな話をここまで大げさに膨らませられるのは見事だ。
あと舞台となるのは、地下で炭坑跡が燃え続けて崩壊しつつある町。こうした町は実在するらしく、写真として見てもなかなかインパクトがある。
ついでに収録されている短編は『ハロウィーンの訪問者』。フリーマーケットで悪ガキが買い叩いたパンプキンヘッドが、夜になると……。そんな、変なパンプキンヘッドを買うと大変なことになるという教訓話。短くシンプルで小気味良い短編で、どちらかと言えば『奇妙な道』よりこちらの方が好きだ。
全体的に捻りが少なく目新しさも無いが(十年以上前の作品集だし)、さすがベテランのベストセラー作家だけあって、構成も文章も安定している。とりあえず無難な海外ホラー小説を読みたい、という人にはちょうど良いラインだろう。(★★★)
ラーメンズ『日本の形:交際』
September 9th, 2006おなじみラーメンズの”Japan Culture Lab”の、どうやら最新作。今回は、日本における男→女へのアプローチの伝統的作法を、委細漏らさず徹底紹介。レクチャー編15分+実践ドラマ編15分と、約30分もの大作です(ワイヤーアクション有り)。
日本の形:交際(ラーメンズ)(1/3)
日本の形:交際(ラーメンズ)(2/3)
日本の形:交際(ラーメンズ)(3/3)
ジェリー・カプラン『シリコンバレー・アドベンチャー』
September 6th, 20061990年前後、GOというベンチャー会社が颯爽と現れ、ペン・コンピュータと名付けた新世代の製品を開発していた。全然知らなかったけど。その製品のコンセプトは一世を風靡し、IBMやマイクロソフト、アップルもこぞって同様のコンピュータを作ろうとしたと言う。全く聞いたこともなかったけれど。そんな、メジャーになりきれなかったベンチャー会社の設立から終焉までを、創業者自身が語ったベストセラー・ノンフィクション、『シリコンバレー・アドベンチャー』。原題は”STARTUP: A Silicon Valley Adventure”。
一技術者だったカプランは、コンセプトとハッタリだけで投資家から数百万ドル集めてGOを設立。以後、IBMとの提携やメディアへの露出で注目を集め、マイクロソフトと火花を散らしたりハード部隊をスピンアウトしたりしつつ、IBMがあまり協力してくれないのでAT&Tに提携先を変え、そうこうしているうちにほとんど収益を上げないままAT&Tに合併されて、結局プロジェクトも志半ばで自然消滅してしまった、という話。
あくまで創業者による経営サイドからの視点なので、技術的なウェイトは皆無だ。それよりも資金調達(「あと×日以内に追加投資を引き出さなきゃ、給料が払えなくなって倒産だ」)や他社との調整(「マイクロソフトが各ベンダーに圧力をかけてる。一体どうすればいいんだ?」)、経営戦略(「うわ、AT&Tはアップルのニュートンで行くらしいぞ。もうおしまいだ!」)といった話がメイン。
まあ全体的には負け戦だけど、割とあっけらかんにユーモア混じりで描いているので、それほど悲壮感は無く、むしろ「さて、次は何の会社を作ろう」みたいな終わり方で、爽やかな読後感がある(実際、このジェリー・カプランが次に設立した会社onSaleは成功して、オークションサイトの古株の一つとなっている)。ただ冷静になって考えてみると、6年間で7500万ドルの投資を飲み込んでおきながら、ほとんど製品らしい製品を出さなかったわけで、これをアメリカという国の懐の広さと見るか、単なるIT投資バブルだったと見るかは微妙なところ。(★★★★)
宮崎琢磨『技術空洞 VAIO開発現場で見たソニーの凋落』
August 30th, 2006元ソニーの下っ端社員が書いた暴露本(と言うほど何かをリークしているわけでもない)、『技術空洞』を。簡単に要約すると、「諸君らが愛してくれたソニーは死んだ、何故だ!」みたいな感じの内容。
まずは筆者の入社当時「VAIOがいかに素晴らしかったか」から始まり、続いて「主にマネージメント層の保守的戦略」によりソニー製品から個性が失われ、「場当たり的なリストラと人事」で優秀なエンジニアが抜けていき、結局今の「製品コンセプトでも技術力でも品質でも勝てない」ソニーに至る、というのが主な流れ。端から見ていて概ね想像がついた通りの内容なので、目新しい知見はほとんど無い。本当に無い。
ただ、2000年前後の「VAIOが当時は一番だった」という自慢話は、個人的に納得しかねるところだ。その頃も「分かってる人」の間では「VAIOは無駄に高くて使いにくくて壊れやすい」というのが定説で、ThinkPadやDynabook、Let’s Noteあたりが評価されていた記憶がある。確かにデザインは飛び抜けていたので、見た目とブランド力で売れていたのは間違いないが、あれを最高と言うのはちょっと持ち上げすぎだろう。客の視点から見たVAIOは、そこまで良いものではなかったと思う。
あとちょっと意外だったのが、久夛良木さんを褒めているくだり。その大口と露出の多さからネットでは叩かれがちな久夛良木さんだが、PSPやPS3といった他社に無い(良くも悪くも)製品の開発を断行できるのは、もはや久夛良木さんぐらいしかいないと言う。まあ、PSPとPS3を除くと本当にエレキとしてのアイデンティティが無くなってしまうので(ウォークマンを指して「ソニーのiPod」と呼ばれる時代だし)、久夛良木さん自体も色々な意味で面白いので、ぜひあのまま突っ走って欲しいものだ。
ちなみに、このゴシップっぽいレーベルの特徴のようだが、所々の言葉に英単語が併記してある。例えば、「今でも忘れられない鮮烈 vivid な光景 scene がある」みたいに。英単語の勉強になって為になる、などということは全くなくただただウザいだけなので、要注意。(★★)
『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト 産婦人科』
August 25th, 2006スパホラ六本目、『産婦人科』。裏家業で中絶手術をしている診療所で、摘出した胎児の一体が処分(=トイレに流す)する前に紛失してしまう。やがて奇妙なことが起こり始め、ついには殺人事件までもが。そんな『悪魔の赤ちゃん』水子版みたいな話。
ストレートに『産婦人科』という、あまりと言えばあんまりな邦題だが、その名に恥じぬくらい地味な内容。水子の霊なのか何なのかよく分からないものに主人公が振り回される、というだけのもので、ラストもおそろしく盛り上がりに欠けたまま終わる。おそらくは中絶反対というテーマを込めた作品なのだろうけど、いかんせん面白くない。残念ながら、ラリー・B級・コーエンの『悪魔の赤ちゃん』、ポランスキーの偏執的な傑作『ローズマリーの赤ちゃん』といった、「赤ちゃんホラー」ジャンルの偉大なる先駆者には遠く及ばない。ただ、ホルマリン漬けの胎児はちょっとリアルに気持ち悪かった。見所を挙げるとすればそれくらい。(★★)
辺見庸『もの食う人びと』
August 24th, 2006飽食な日本にはもううんざり。世界には食えない国だって多いはず。そんな本当の食を求めて旅に出た。という感じの、ノンフィクション作家・辺見庸のルポ本。バングラデシュで残飯を食うところから始まり、ドイツの刑務所で囚人とランチし、エチオピアで衰弱死寸前の子どもを眺め、果てはチェルノブイリでスープをご馳走になったりする、世界貧困食紀行みたいなもの。どこをどう読んでも普通の旅行の参考にはならないが、逆にこういうグルメでも名物でもゲテモノでもない食の話は他に見たことがないので、ちょっと読んでみる。
まずタイトルにある通り、主題は「人びと」であって、「食」は企画上絡めているけれどもあんまり「味」については語られていない。また、「人びと」の部分も相当に感傷的で、ちょっと鼻につくところも少なくない。だが、少なくとも「多少の放射能汚染なら味は変わらない」と言った知識を仕入れることはできる。特に戦後の日本軍残留兵がミンダナオ島で食人行為をしていた、というのはちょっと知らなかった。知っていたからといって何かの役に立つわけではないけれど。
ある意味ピーター・メイルと対極に位置する本だが、よくよく考えると、高い旅費とガイト・通訳と(多分)カメラマンを使ってバングラデシュに残飯を食べに行ってるわけで、究極の贅沢、と言えなくもない気がする。(★★★)