岩脇一喜『SEは今夜も眠れない』
元銀行のシステム部門の人が15年に及ぶSE生活での体験(主にトラブル)を綴った、『SEは今夜も眠れない』を。
多分アニメーターとゲーム開発者の次くらいに「眠れない」職業であろう、SEにスポットを当てた本。ではあるが、この著者は、銀行の、しかも国際業務班という海外を飛び回るポジションで、日本の一般的なSEとは一寸異なる代物だ。ブリュッセルやパリに赴き、一秒を争う状況でトラブルに立ち向かう(銀行業務なので間違ったり遅れたりすると億単位の損失が出るとか)のが普通のSEだと思われると、ちょっと困る(それに、日本のSEの多くは金融系みたいに良い待遇を受けていない)。
まあ、読み物としてはロスの大地震やニューヨークのテロ事件に関わるエピソードがあったりして、それなりに興味深いけれど。読後感がいまいち物足りないのは、せっかく金融系の話なのに結局たいした失敗談もなく、どのエピソードも無難な結末で終わっているからだろう。ベアリングス銀行やエンロン事件と比べるのは酷だが、一億や二億ぐらいの損失を出してさあどうしよう、ぐらいの話は欲しかった。大抵の場合、成功談より失敗談の方が面白いのだから。(★★)