ディーン・クーンツ『ストレンジ・ハイウェイズ1 奇妙な道』
超ベストセラー作家の一人でありながら、同じジャンルにスティーブン・キングという王様が居座り続けているおかげで、三十年来トップに立ちきれないというポジショニングの(主に)ホラー作家、ディーン・クーンツ。その95年頃の中短編集『ストレンジ・ハイウェイズ』三分冊の一つを。
まずは中編の『奇妙な道』。父の訃報を受けて故郷に戻った、落ちこぼれ四十路のジョーイ。そこで昔に封鎖されたはずの道を進むと、なぜか若かりし頃の自分に戻り、少女セレステと出会う。そこでジョーイは過去に防げなかった殺人事件のことを思い出し、やり直すチャンスだと信じて殺人鬼と相対する。という、割と普通にありそうなセカンドチャンスもの。
ただこの話がちょっとユニークなのは、殺人鬼が悪魔に魂を売り渡した不死身の超人だったり、主人公が死にそうになったら臆面も無く時間が巻き戻ってみたりするあたり。スティーブン・キングもそうだけど、シンプルな話をここまで大げさに膨らませられるのは見事だ。
あと舞台となるのは、地下で炭坑跡が燃え続けて崩壊しつつある町。こうした町は実在するらしく、写真として見てもなかなかインパクトがある。
ついでに収録されている短編は『ハロウィーンの訪問者』。フリーマーケットで悪ガキが買い叩いたパンプキンヘッドが、夜になると……。そんな、変なパンプキンヘッドを買うと大変なことになるという教訓話。短くシンプルで小気味良い短編で、どちらかと言えば『奇妙な道』よりこちらの方が好きだ。
全体的に捻りが少なく目新しさも無いが(十年以上前の作品集だし)、さすがベテランのベストセラー作家だけあって、構成も文章も安定している。とりあえず無難な海外ホラー小説を読みたい、という人にはちょうど良いラインだろう。(★★★)