『流血の魔術 最強の演技―すべてのプロレスはショーである』
近ごろ流行りの八百長ブームを機に、積ん読本の地層からこんな本を。プロレスの元ベテラン・レフリーが打ち明ける、プロレスという名の格闘技、と言うかショーの真実。「相手に負けてもらえるよう駆けずり回って交渉した」「選手やレフリーがカミソリを隠し持って流血を演出した」「わざと襲撃事件をでっちあげて話題を呼んだ」といった裏事情が並びつつも、「ショーだと分かった上で楽しんで欲しい」というメッセージを込めた、ノンフィクション本。
まあ、今時プロレスが真剣勝負だと本当に信じて見ている人はいないだろうし、僕も実際見ていないが(プロレスそのものを)。それでも人がプロレスを見て楽しむのは、八百長だと分かっていながらも、「真剣勝負ということになっている」ことに納得しているからであろう。つまりプロレスとは、ジョージ・オーウェル流の二重思考が要求される、極めて近代的なエンターテインメントであると言える。
一方で亀田氏の試合があそこまでバッシングを受けたのは、「真剣勝負ということになっている」色の強いボクシングで、素人目に八百長としか思えない結果になってしまったからだ。もうこのあたりは興行側や選手たちの、「それらしく見せる」技量が足りなさすぎたと言わざるをえない。八百長なら八百長なりにもっと空気を読み、観客の求める展開を作るべきであったはずだ。例えば普通の判定で勝てそうにないなら、ゴングの合間にまぐれKO勝ちのシナリオを作って両選手に伝える、くらいの工夫をすべきだった。こうした点で、まだまだボクシングはプロレスに及ばないなあ、と思った次第。(★★★)