[本][SF] ジャック・ウォマック『ヒーザーン』

ある朝、歩いて出勤するとき、わたしは危うく赤ん坊に殺されそうになった。その運命の瞬間、わたしはバス停留所の屋根の下を通っていたおかげで生き延び、その話をすることができる。

こんな書き出しから始まる、ジャック・ウォマックの小説『ヒーザーン』。ギブスンからさらにカルトかつマニアックな方向に突き進んだようなSF作家で、この小説はウォマックの六部作の第三作にあたるようだが、とりあえず単独でも読めるらしいので読んでみた。

正直言って、何度途中で投げだそうとしたか分からない。たかだか文庫本300ページちょっとの小説で、これほど時間がかかったのは久しぶりだった。とにかく至るところが読みにくく、台詞一つとっても譫妄患者のうわごとのように意味が取りにくい(近未来が舞台ということで、原文でも独自の省略語が使われているそうで、それを無理に日本語訳にしたためなのだろうか)。基本的に数人の中心人物のやり取りがメインの地味な話だけに、会話文が分かりにくいのはかなり厳しい。話自体もかなり難解で地味な、SFの名を借りた人間劇のようなものなので、万人どころかストレートなSFファンにもお勧めはできない。

だが、徹底して読みにくい反面、独特のスタイルを貫いているとも言える。近未来の独占企業による陰鬱な超格差社会や、その頂点に君臨する夫妻のどうしようもない人間性など、目を見張る部分も多い。文学系SFのカルト作品が読みたいという人には向いているかもしれない。

ジャック・ウォマック『ヒーザーン』

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