[本][ホラー] ラムゼイ・キャンベル『無名恐怖』
英国ホラー界の偉大な作家、ラムゼイ・キャンベル(あるいはラムジー・キャンベル)の、長編の数少ない翻訳本の一つ、『無名恐怖』。この人の短編小説はよくホラー系アンソロジーに収録されており、その一つ一つが本当に素晴らしいので、その方面の読者なら誰でも知っているくらい有名なのだが。長編はどうにもヒットに恵まれず、邦訳された作品も極めて少ない。この『無名恐怖』も、映画化されていなかったらおそらく未訳のままだっただろう。まあ、作風的に一般向けとは言いがたく、あくまでカルト作家的なので、仕方ないと言えば仕方がない。
カルト教団に娘をさらわれた母親の、パラノイアと、破壊された家族の物語。キャンベルのルーツであるクトゥルー神話の影も色濃く、名前を持たないカルト信者と、正体不明の「何か」が醸す不気味さ/不条理さは流石の一言。直接的な描写は乏しく、地味としか言いようにない面があるものの、全篇を通じての皮膚を蟻が這うような感触はキャンベルならでは。ただ、ラストの展開はちょっと納得しかねる部分がある。あと、もう少し短く、短編くらいの方が良かったような。