[本] アヴィ『クリスピン』
2003年度ニューベリー賞受賞作、『クリスピン』を。ニューベリーの受賞作と言えば『ザ・ギバー』や『めぐりめぐる月』、『穴』など、個人的にヒット率が高いので、機会があれば読むようにしている。この『クリスピン』もその一つ。十四世紀イングランドを舞台にした、少年クリスピンの冒険小説。
クリスピンの出生には秘密があり、それがために領主の執事から命を狙われる。という筋の話だが、非常にミニマムなストーリー展開にちょっと驚いた。現実の中世が舞台なため、魔法や怪物は当然存在せず、クリスピンに特別な力があるわけでもない(出生の秘密自体も、それほどたいしたものじゃない)。活劇シーンもラストに少しあるくらいで、その内容もとても淡泊だ。率直に言って、児童が読んでもそれほど面白がる話ではない気がする。
全体的にキャラもストーリーも薄い印象があるものの、「熊」と呼ばれる大男だけは非常に生彩があり魅力的。話もシンプルで最小限に近いが、クリスピンが成長するためのポイントはきっちり押さえてあり、まあ十分と言えるだろう。中世の頃の、現実離れしていない手頃な冒険譚を読みたい大人向けの児童文学、といった体の作品だと思う。