[本] 横田増生『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』
世界最大の通販サイトでありながら、内側の情報がほとんど漏れてこない Amazon.com。そのアマゾンの物流センターにバイトとして潜り込んだ経験をまとめた、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』を。4年近く前の話なので新物流センター以前の情報となるが、それなりに参考にはなるだろう。
サブタイトルの「光」の部分は、アマゾンの日本における躍進を差す。アマゾンが持つ膨大な商品と顧客嗜好およびレビューのデータベースもさることながら、それらの商品を物理的に届ける物流網を構築できた(基本は日通で、他に佐川メール、ヤマト当日便など)のも大きい。既存の出版業界が再販+委託制度と返品本債権とで身動きが取れなかったのも、アマゾンには追い風だったのだろう。これといった好敵手も現れないまま、数年で日本最大の書店に登りつめてしまった。
一方「闇」の部分は、アルバイトを機械的に行使する物流システムを挙げて、アルバイトの希望の無さや冷酷な扱いを語っている。いわゆる格差社会の底辺の話で、それはそれで面白いけど、もうとりたてて珍しい話ではないだろう。バブル期の頃の本と併せて読むと、シュールなコントラストが味わえるかもしれない。
個人的には、ところどころで現れる数字が(大体は推測とはいえ)興味深かった。利幅が薄いと言われる書籍で、1500円という比較的低い額で送料無料にして元が取れるのか? 買取も多いと聞くが掛け率は何%くらいか? といった出版業界以外の人にとってほとんど無意味なことにも興味がある人なら、読む価値が十分あると思う。
アマゾンの送料は300円だから、日通の取り分も約300円ということだ。…(略)…アマゾンが1500円の本を業界平均といわれる78%で仕入れたとすると、粗利は330円。送料300円を負担しても、まだ30円が残る。
そして、その400人いるアルバイトが少しでも怠け心を起こさないようにと、ここではすべての作業に厳しいノルマが課せられていた。ピッキング「一分で3冊」、検品「一分で4冊」、棚入れ「一分で5冊」、手梱包「一分で一個」……。
一分で三冊のピッキングということは、60分で180冊になる。時給900円なら、一冊あたりのピッキングにかかるコストは5円。同じく時給を他の作業ノルマで割ると、検品は一冊あたり約4円、棚入れは3円、手梱包は15円……。
こうして計算していくと、ピッキングから手梱包までで、一冊あたりに支払うバイト料はしめて27円となる。これが出荷の大半を占める自動梱包になると12円で済む。「棚は捨ててもらって構いません。本のデザインとなっている場合だけ、ダメージとしてください」
顧客が一度に20点以上注文した場合は、ビッグ注文となり、他の注文とは別に、個別にピッキングしてから梱包、配送するのだという。…(略)…このビッグのPスリップには、顧客情報も書いてある。
アルバイトが二ヶ月ごとの契約更新であるのに対して、契約社員は一年ごと。残業代はつかずに、こき使われるだけこき使われて年俸で300万円前後だというのだから、日東配の契約社員になりたがるアルバイトはよっぽどの物好きだった。
三者の取り分は一般的に、出版社が70%、取次8%、書店が22%といわれる。この配分は、出版業界での黄金比率のようなもので、一番座りがいいとされる。これが崩れると、業界に波風が起こる。
横田増生『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』