Archive for August, 2006


宮崎琢磨『技術空洞 VAIO開発現場で見たソニーの凋落』

Wednesday, August 30th, 2006

 元ソニーの下っ端社員が書いた暴露本(と言うほど何かをリークしているわけでもない)、『技術空洞』を。簡単に要約すると、「諸君らが愛してくれたソニーは死んだ、何故だ!」みたいな感じの内容。

『技術空洞』

 まずは筆者の入社当時「VAIOがいかに素晴らしかったか」から始まり、続いて「主にマネージメント層の保守的戦略」によりソニー製品から個性が失われ、「場当たり的なリストラと人事」で優秀なエンジニアが抜けていき、結局今の「製品コンセプトでも技術力でも品質でも勝てない」ソニーに至る、というのが主な流れ。端から見ていて概ね想像がついた通りの内容なので、目新しい知見はほとんど無い。本当に無い。
 ただ、2000年前後の「VAIOが当時は一番だった」という自慢話は、個人的に納得しかねるところだ。その頃も「分かってる人」の間では「VAIOは無駄に高くて使いにくくて壊れやすい」というのが定説で、ThinkPadやDynabook、Let’s Noteあたりが評価されていた記憶がある。確かにデザインは飛び抜けていたので、見た目とブランド力で売れていたのは間違いないが、あれを最高と言うのはちょっと持ち上げすぎだろう。客の視点から見たVAIOは、そこまで良いものではなかったと思う。
 あとちょっと意外だったのが、久夛良木さんを褒めているくだり。その大口と露出の多さからネットでは叩かれがちな久夛良木さんだが、PSPやPS3といった他社に無い(良くも悪くも)製品の開発を断行できるのは、もはや久夛良木さんぐらいしかいないと言う。まあ、PSPとPS3を除くと本当にエレキとしてのアイデンティティが無くなってしまうので(ウォークマンを指して「ソニーのiPod」と呼ばれる時代だし)、久夛良木さん自体も色々な意味で面白いので、ぜひあのまま突っ走って欲しいものだ。

PSPから見るSCEと久夛良木の歴史

 ちなみに、このゴシップっぽいレーベルの特徴のようだが、所々の言葉に英単語が併記してある。例えば、「今でも忘れられない鮮烈 vivid な光景 scene がある」みたいに。英単語の勉強になって為になる、などということは全くなくただただウザいだけなので、要注意。(★★)

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト 産婦人科』

Friday, August 25th, 2006

 スパホラ六本目、『産婦人科』。裏家業で中絶手術をしている診療所で、摘出した胎児の一体が処分(=トイレに流す)する前に紛失してしまう。やがて奇妙なことが起こり始め、ついには殺人事件までもが。そんな『悪魔の赤ちゃん』水子版みたいな話。

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト 産婦人科』

 ストレートに『産婦人科』という、あまりと言えばあんまりな邦題だが、その名に恥じぬくらい地味な内容。水子の霊なのか何なのかよく分からないものに主人公が振り回される、というだけのもので、ラストもおそろしく盛り上がりに欠けたまま終わる。おそらくは中絶反対というテーマを込めた作品なのだろうけど、いかんせん面白くない。残念ながら、ラリー・B級・コーエンの『悪魔の赤ちゃん』、ポランスキーの偏執的な傑作『ローズマリーの赤ちゃん』といった、「赤ちゃんホラー」ジャンルの偉大なる先駆者には遠く及ばない。ただ、ホルマリン漬けの胎児はちょっとリアルに気持ち悪かった。見所を挙げるとすればそれくらい。(★★)

辺見庸『もの食う人びと』

Thursday, August 24th, 2006

 飽食な日本にはもううんざり。世界には食えない国だって多いはず。そんな本当の食を求めて旅に出た。という感じの、ノンフィクション作家・辺見庸のルポ本。バングラデシュで残飯を食うところから始まり、ドイツの刑務所で囚人とランチし、エチオピアで衰弱死寸前の子どもを眺め、果てはチェルノブイリでスープをご馳走になったりする、世界貧困食紀行みたいなもの。どこをどう読んでも普通の旅行の参考にはならないが、逆にこういうグルメでも名物でもゲテモノでもない食の話は他に見たことがないので、ちょっと読んでみる。

『もの食う人びと』

 まずタイトルにある通り、主題は「人びと」であって、「食」は企画上絡めているけれどもあんまり「味」については語られていない。また、「人びと」の部分も相当に感傷的で、ちょっと鼻につくところも少なくない。だが、少なくとも「多少の放射能汚染なら味は変わらない」と言った知識を仕入れることはできる。特に戦後の日本軍残留兵がミンダナオ島で食人行為をしていた、というのはちょっと知らなかった。知っていたからといって何かの役に立つわけではないけれど。
 ある意味ピーター・メイルと対極に位置する本だが、よくよく考えると、高い旅費とガイト・通訳と(多分)カメラマンを使ってバングラデシュに残飯を食べに行ってるわけで、究極の贅沢、と言えなくもない気がする。(★★★)

『贅沢の探求』

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト リアル・フレンド』

Tuesday, August 22nd, 2006

 スパホラ五本目、『リアル・フレンド』。少女エストレヤは、レザーフェイスが心の友だちでスティーブン・キングが愛読書という、素敵な趣味の持ち主。そんなエストレヤの前に「現実」の危険な男が現れたとき、彼女の空想が本当のものになり──。

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト リアル・フレンド』

 とまあ、開始十分で「空想の友だちがいざというときに助けてくれる」系の話だと読めてしまう作品。ただこの映画が特徴的なのは、その友だちが『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスや『吸血鬼ノスフェラトゥ』のノスフェラトゥといった、世界中の誰もが知ってるホラー界のヒーローたちだという点だ。レザーフェイスがいつも主人公に寄り添い、学校の教室で座っていたり、彼女が落ち込んでいるときには不器用に慰めたりする様は、なかなか他の映画で観れるものではない。そんな「心の友だちはレザーフェイス」というネタ一点だけで一時間以上ひっぱる、ちょっと微妙なホラー中編。(★★)

 ちなみに、世の中にはジェイソンVSレザーフェイスなんてものも。ただのチェーンソー振り回すだけの狂人が、宇宙からでも帰ってきたジェイソンに勝てるはずがない気もするけど、実際やられてるっぽい。

『流血の魔術 最強の演技―すべてのプロレスはショーである』

Saturday, August 19th, 2006

 近ごろ流行りの八百長ブームを機に、積ん読本の地層からこんな本を。プロレスの元ベテラン・レフリーが打ち明ける、プロレスという名の格闘技、と言うかショーの真実。「相手に負けてもらえるよう駆けずり回って交渉した」「選手やレフリーがカミソリを隠し持って流血を演出した」「わざと襲撃事件をでっちあげて話題を呼んだ」といった裏事情が並びつつも、「ショーだと分かった上で楽しんで欲しい」というメッセージを込めた、ノンフィクション本。

 まあ、今時プロレスが真剣勝負だと本当に信じて見ている人はいないだろうし、僕も実際見ていないが(プロレスそのものを)。それでも人がプロレスを見て楽しむのは、八百長だと分かっていながらも、「真剣勝負ということになっている」ことに納得しているからであろう。つまりプロレスとは、ジョージ・オーウェル流の二重思考が要求される、極めて近代的なエンターテインメントであると言える。
 一方で亀田氏の試合があそこまでバッシングを受けたのは、「真剣勝負ということになっている」色の強いボクシングで、素人目に八百長としか思えない結果になってしまったからだ。もうこのあたりは興行側や選手たちの、「それらしく見せる」技量が足りなさすぎたと言わざるをえない。八百長なら八百長なりにもっと空気を読み、観客の求める展開を作るべきであったはずだ。例えば普通の判定で勝てそうにないなら、ゴングの合間にまぐれKO勝ちのシナリオを作って両選手に伝える、くらいの工夫をすべきだった。こうした点で、まだまだボクシングはプロレスに及ばないなあ、と思った次第。(★★★)

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト 悪魔の管理人』

Thursday, August 17th, 2006

 スパニッシュ・ホラー・プロジェクト、四本目。古ぼけたアパートにやって来た若いカップルが、そこの管理人(オバサン)に襲われるという、それだけの話。本当にそれだけ。都会の集合住宅における入居トラブルがエスカレートしてどうこう、みたいな展開を想像していたけど。そんな社会的テーマは毛ほどもなく、開始十分後にはもう管理人が武器を持って追ってきている、それくらい余計な贅肉の無いB級ホラー映画。起「管理人が襲いかかってくる」、承「管理人から逃げまどう」、転「管理人に反撃する」、結「管理人に結局勝てない」、という感じ。

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト 悪魔の管理人』

 主人公たちがたまたま訪れた建物に異常者がいて追いかけてくる、なんて作品はそれこそ幾万とあるが、舞台のアパートがなかなか良い雰囲気を出しており、薄暗い灰色基調の画質と相まって、そのへんの100円ビデオセールのホラー映画とは一線を画している。とにもかくにもシンプルに、だが基本に忠実かつ丁寧に仕上げたB級ホラーの良作。『ダークネス』の監督だと後から知った。なるほど。(★★★)

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト エル・タロット』

Tuesday, August 15th, 2006

 スパニッシュ・ホラー・プロジェクトの三本目。ものすごく大雑把に言うと、老作家が故郷に戻って昔付き合っていた不思議な女のことを回顧する、という話。現在と過去を交互に描きつつ、過去の出来事とその真相が明らかになっていく、いわゆる「スティーブン・キングの老人昔話」系。

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト エル・タロット』

 そんな、ジャンル的にはホラーだけどちょっと良い話っぽいあたりを狙ったのだろうけど。キング作品の魅力である、妙に細かいエピソードの描写や、やり過ぎ気味なハッタリに欠けており、どうにも地味で退屈という印象がぬぐえない。『トワイライト・ゾーン』系の30分枠ならともかく、この内容とオチで90分弱はちょっと厳しい。フランスの(クソ退屈な)芸術系映画だって全然平気、という人向け。(★★)

ゆりしー、ライブチケット。

Monday, August 14th, 2006

 天然不思議系アイドル声優として人気急上昇中の、落合祐里香こと「ゆりしー」。そのゆりしー主催のライブが開催される、ということでその前売りチケットを購入。普段は声優系のイベントに行くことのない僕だが、この人のブログから漂うそこはかとない不幸/貧乏さに惹かれて。まあラジオも聞いてることだし。

ゆり花日和

 で、発売日当日の販売開始10時、その5分遅れでローソンへ。「くそ、出遅れた」とか思わなかったわけでもないが、速攻で購入すると、60番台の整理番号に。発売直後に一桁台を取った人の話もあるので、この5分で60枚ものチケットが売れたのだろう。会場のShibuya eggmanは定員300人らしいから、十分に即日完売のペースだ。噂には聞いていたけど、本当に(一部の界隈で)人気あるんだ、と実感した次第。
 ちなみに同日購入したマイナー系JPOPシンガーの雄、SHUUBIのライブチケットは、発売三週間後でありながら、整理番号50番台でした。SHUUBIがんばれ、超がんばれ。

SHUUBI OFFICIAL WEBSITE :::PROFILE:::

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト クリスマス・テイル』

Thursday, August 10th, 2006

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト クリスマス・テイル』

 スパニッシュ・ホラー・プロジェクトの一編、『クリスマス・テイル』。人気の無い森の中で、子供たちは涸れ井戸に落ちたサンタ姿の女性を見つける。だがその女性は、実は逃走中の銀行強盗で……という導入部で『サンタが殺しにやってくる』や『悪魔のサンタクロース』とかのサンタ殺人鬼? と思っていたら。子供たちが女を井戸に閉じこめたままいびり殺したら、女サンタがゾンビとなって襲ってくる、というスパニッシュ・ゾンビ映画でした。

20060809_01.jpg

 で、色々あって子供たちは女ゾンビを撃退して井戸に落とし、「今日のことは絶対だれにも言わないこと」と固く誓い合って解散する。と、スティーブン・キングなら絶対に三十年後あたりに再び事件が起こりそうな展開だけど、そこは中編テレビ映画のこと、その日のうちに女ゾンビが復活して子供たちを血祭りに上げる。そんな感じの、すっきりした後味の小品だった。
 個人的には、子供たちがゾンビ退治の参考にする作中のゾンビ映画(『フラッシュ・ゴードン』時代っぽいチープな感じの)や、鉢巻きを巻いて窓ふき訓練している男子(『ベスト・キッド』?)あたりが失笑どころ。(★★★)

『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト ベビー・ルーム』

Monday, August 7th, 2006

 スペインの中堅どころの映画監督が揃いも揃ってホラー映画を撮るという、スパニッシュ・ホラー映画ファンにとってはたまらない(それ以外の人にとっては割とどうでもいい)企画、スパニッシュ・ホラー・プロジェクト。その作品の一つの『ベビー・ルーム』を。

20060807_01.jpg

 いわくつきの家を買ったら子供部屋に何かいて、それがどうやら監視カメラのモニタにしか映らず、どういうことかと調べていたら平行世界に迷い込んで、そこにいた殺人者の正体が実は……という感じの幽霊屋敷系超自然スリラー。それっぽく理屈を説明する場面がなかなか微妙で、
「シュレディンガーの猫を知っているか?」
「(略)猫を助けるには?」
「不可能だ。下手をすると自分が箱の中に閉じこめられる
 スペインあたりでは、シュレディンガーの猫はそういう話だと思われているのだろうか。
 まあ、作品自体はそれなりに。ビデオカメラにだけ違う姿の屋敷が映る、という他のホラー映画幾つかで観た気がしないでもないギミックを、そこそこ効果的に使っている。低予算テレビ映画という枠で観れば、十分満足のいくレベル。(★★★)