Archive for the '本' Category


[本] ロバート・ホワイティング『東京アンダーワールド』

Wednesday, September 19th, 2007

 戦後日本の混乱期に来日し、闇市で一儲けしてピザハウスで旗揚げした男、ニコラ・ザペッティ。闇社会のヤクザやレスラーとも親交深く、一時は六本木の帝王とまで呼ばれたこの「ガイジン」の破天荒な人生を軸に、戦後日本のアンダーワールドを描いたノンフィクション本。
 本筋となるニコラ・ザペッティの山有り谷有り(後半はほとんど谷ばかりだが)な人生も興味深いが、その周辺に描かれる闇社会的な出来事がとにかく面白い。例えばアメリカ進駐軍の、日本から祖国への送金が給料の総額を遙かに超えていたり(つまり闇市の取引で)、北朝鮮出身であることを隠されつつヒーローになった力道山が影で賭博場を仕切っていたり、ロッキードを始めとする航空会社が六本木界隈で関係者を激しく接待していたり。そんな、教科書に載っている昭和史の裏側が垣間見える、なかなか楽しい内容だった。この中の闇社会の構造はある程度現代にも通じるはずで、下手な日本史の本を読むよりもためになると思う。

 http://www.nicolas-pizzahouse.com/
 今も残る、ニコラが始めたピザのブランド。日本に帰化までしたニコラ小泉が、日本のルールやビジネスの壁に阻まれて没落する後半はちょっと切ない。

ロバート・ホワイティング 『東京アンダーワールド』

[本] ジョレミ―・ドロンフィールド『飛蝗の農場』

Saturday, September 8th, 2007

 ジョレミ―・ドロンフィールド作、『飛蝗の農場』。郊外で飛蝗の飼育場を営む女性が、嵐の夜に雨宿りを求めてきた見知らぬ男をショットガンで撃ってしまう。女は、ショックで記憶を失った男を介抱し、記憶を取り戻す手助けを始めるが、やがて「汚水溝の狩猟者」を名乗る連続殺人鬼が二人に迫る。
 という、ちょっと『イングリッシュ・ペイシェント』っぽい設定のサスペンス小説。何年か前の「このミステリーがすごい!」海外部門一位の作品、ということで読んではみたものの、どうにも乗り切れないまま終わってしまった。それほど欠点があるわけでもないが、全体として中途半端な印象。ありえない偶然や犯人の突拍子が無さすぎる動機のおかげでミステリーにはなりきれてないし、サスペンスとしては登場人物、特に真犯人の魅力が薄すぎる。もう少し描写や設定が写実的でなければ良い幻想小説になった気もするが、そんな感じでも無い。あとがきと解説にも重ねて書かれている、「なんだ、これは?」というのが感想として一番しっくりくる、そんな小説。文章は達者で構成もしっかりしているだけに、少し残念だ。

ジョレミ―・ドロンフィールド 『飛蝗の農場』

[本] パトリシア・ハイスミス『扉の向こう側』

Monday, August 20th, 2007
パトリシア・ハイスミス 『扉の向こう側』

[本] ロバート・コーミア『心やさしく』

Monday, August 6th, 2007

 ヤングアダルト文学の名手、ロバート・コーミア。日本ではあまり有名ではないかも知れないが、一作一作の完成度が非常に高く、簡潔な文体で微妙な心理を描き、ついでにラストの衝撃度が半端でない作品揃いで、僕が個人的に最も好きな作家の一人だ。『チョコレート戦争』、”I Am the cheese”あたりはタイトルのポップさとは裏腹に、本当に恐るべき作品であり、万人が読むべき小説だと思う。
 『心やさしく』も、家出少女がサイコパスの少年シリアルキラーに憧れて会いに行く、という何とも “Tenderness”っぽくないストーリーだ。少年の余罪を確信してつけ狙う老警官も絡んで、コーミアのあの流れるような筆致で話は展開し、やはり恐るべき結末に到達する。淡々とし過ぎている感も無くはないが、この奇妙な読後感はやはりロバート・コーミアならではのもの。やはりこの人の作品は面白い。

ロバート・コーミア 『心やさしく』

[本] 横田増生『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』

Sunday, July 22nd, 2007

 世界最大の通販サイトでありながら、内側の情報がほとんど漏れてこない Amazon.com。そのアマゾンの物流センターにバイトとして潜り込んだ経験をまとめた、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』を。4年近く前の話なので新物流センター以前の情報となるが、それなりに参考にはなるだろう。
 サブタイトルの「光」の部分は、アマゾンの日本における躍進を差す。アマゾンが持つ膨大な商品と顧客嗜好およびレビューのデータベースもさることながら、それらの商品を物理的に届ける物流網を構築できた(基本は日通で、他に佐川メール、ヤマト当日便など)のも大きい。既存の出版業界が再販+委託制度と返品本債権とで身動きが取れなかったのも、アマゾンには追い風だったのだろう。これといった好敵手も現れないまま、数年で日本最大の書店に登りつめてしまった。
 一方「闇」の部分は、アルバイトを機械的に行使する物流システムを挙げて、アルバイトの希望の無さや冷酷な扱いを語っている。いわゆる格差社会の底辺の話で、それはそれで面白いけど、もうとりたてて珍しい話ではないだろう。バブル期の頃の本と併せて読むと、シュールなコントラストが味わえるかもしれない。
 個人的には、ところどころで現れる数字が(大体は推測とはいえ)興味深かった。利幅が薄いと言われる書籍で、1500円という比較的低い額で送料無料にして元が取れるのか? 買取も多いと聞くが掛け率は何%くらいか? といった出版業界以外の人にとってほとんど無意味なことにも興味がある人なら、読む価値が十分あると思う。

横田増生 『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』
『自動車絶望工場』 横田増生 『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』

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[本] ジェフリー・ロビンソン『ザ・ホテル』

Thursday, July 12th, 2007

 そしてザ・ホテルにおける四十年あまりの生活ではじめて、ウィングローヴは顧客から実際に「ゾウをキャンセルしてくれ」といわれたのだった。

ジェフリー・ロビンソン『ザ・ホテル』

 ロンドンの超一流ホテル「クラリッジ」の裏側を描いたノンフィクション作品、『ザ・ホテル』。ちょっと変わったブルジョワジーたちの注文(例「ゾウを手配してほしいのだが」)や、コスト削減を主張するマネージャーと食材に妥協したくない料理長との確執、エリザベス女王の90分間の訪問に17万ポンド費やして準備したエピソード等々。僕にとって全く異世界ではあるけど、どんな業界であれ最上位クラス(または最底辺)の話はとても興味深いものだ。この本は、ホテル業界の暗部みたいなブラックさには欠けるものの、個性的な宿泊客やプロ意識あふれる従業員をユーモラスに描いたエピソードの数々は、十分に面白い。

ジェフリー・ロビンソン 『ザ・ホテル』

[本] ウォルト・ベッカー『リンク』

Wednesday, July 4th, 2007

「極端ないいかたをすれば、それはまるで、自動車の全部品をばらまいておけば、部品がひとりでに組みあがって、数百万年もたつころには、まともに走るヒュンダイの車になるというようなもんじゃないか」
「まともに走るヒュンダイ? それ、矛盾語法じゃない」

ウォルト・ベッカー『リンク』

 猿から人へのミッシング・リンク、現代技術では作りえない古代遺跡、そして宇宙人の化石と小型核融合炉──そんな、ややトンデモ系のネタを散りばめた冒険小説、『リンク』。『神々の指紋』や形態形成場理論など(まあ90年代末の作品なので)、怪しげな豆知識が唐突に説明口調で挿入されるのが何となく微笑ましい。作者はマイケル・クライトンを狙ったのかも知れないが、ウンチクが本当に薄っぺらいので、どちらかと言えばコメディとして捉えるべきだろう。事実、海外でも “action/adventure comedy” 扱いされている
 全体として、面白くないわけではないのだけど、あらゆる面で平均点過ぎて、記憶に残りにくい出来となっている。ただ、ハリウッドで映画化すれば立派な「消費用」娯楽作品になりそうだ。ディズニーが映画化権を買い取っていて、そろそろ撮り始めるようだが、まあ悪い映画にはならないように思う。

ウォルト・ベッカー 『リンク』

[本] ジャック・ダン編『魔法の猫』

Wednesday, June 20th, 2007
ジャック・ダン編 『魔法の猫』

[本] テア・フォン・ハルボウ『メトロポリス』

Friday, June 15th, 2007
テア・フォン・ハルボウ 『メトロポリス』

[本] トム・クランシー『合衆国崩壊』

Wednesday, June 13th, 2007

 今さらながら、トム・クランシーの『合衆国崩壊』を読了。とうとう大統領にまでなってしまったあのジャック・ライアンが、テロ攻撃と中東情勢とに立ち向かう、500ページ級文庫4分冊の大作。
 JALの旅客機が国会議事堂に特攻し、米国首脳陣はほとんど壊滅。一方イラクも独裁者を暗殺され、政権の崩壊に陥っていた。この機に応じてイランの指導者は、アメリカにウイルス兵器によるテロ(空気感染するエボラウイルス!)をしかけ、アメリカ国内の混乱を広げる。さらに中国政府を操り台湾との小競り合いを起こさせ、湾岸近辺の艦隊が遠ざかった隙に、サウジアラビアへの侵攻を開始する。という、かなりとんでもないストーリー。
 結果としてアメリカは、テロの主犯を証拠とともに挙げ、イランへの宣戦を布告。かろうじてサウジに送り込んだ兵力と最新装備により、イラン連合軍を鮮やかに撃退する。ついでに諜報部員の活躍により、イランの指導者をピンポイント攻撃で抹殺し、ごく短期間で戦争を終結させる。
 中東からテロ攻撃を受けたアメリカが反撃として戦争を始める、というのはどこかで聞いた話ではある。9.11より前に書かれたこの小説では(アメリカにとって)ほとんど理想的な解決を迎えるが、現実の方は泥沼化の一途を辿るばかり(もう何の大義名分が残っているのかもよく分からない)。今の大統領がジャック・ライアンのせめて十分の一でも有能だったら、世界はもう少し違っていたかも知れないのに。

トム・クランシー 『合衆国崩壊』